福岡県の田舎町から、最先端の冷凍技術を用いて「デザート」の新たな市場を創出している企業があります。
第27回は、「冷凍ケーキ」という分野で、日本トップクラスの販売数を誇る「五洋食品産業 株式会社」です。
技術の発達により生産可能となった「冷凍ケーキ」は 全国で注目されおり、福岡県の北西部に位置する糸島市に本社を構える「五洋食品産業」は、その「冷凍ケーキ」の分野で先頭を走っている企業です。売上高は、21億3,000万円(2019年期)で、現在は「冷凍ケーキ」に特化し、200アイテム以上の商品を製造しています。2008年と2013年には食のオリンピックと呼ばれる「モンドセレクション」にて、"金賞"を受賞している凄い企業です!
元々は、現社長の「舛田 圭良氏」の父が、チーズ加工・販売会社として1975年に設立しました。2000年より「舛田 圭良氏」が、社長に就任しています。そんな舛田社長は、前職はエンジニアとして「日野自動車」で働かれていた"バリバリ"の技術者です。
趣味が「モータースポーツ」と述べられている通り、日野自動車ではレース用エンジン・環境対策エンジンの設計開発をされており、ここで「製造業の基礎」を学ばれています。
ーーー
●ここで、「日本の急速冷凍技術」と 五洋食品産業の主力アイテムである「冷凍ケーキ」について紹介します。
●先ずは「日本の急速冷凍技術」について…
実は、海に囲まれた日本は、昔から魚をいかに新鮮に保つかが永遠の課題とされていた為、日本の冷凍技術の歴史も古く「大正時代」には導入されていました。
そして、この冷凍技術が日本の戦後の発展を支えて来ました。その冷凍技術の中でも、最新の技術が「急速冷凍」です。通常の冷凍は「緩慢凍結」と呼ばれ、食品を凍結する際、食品の中心温度が最大氷結晶生成帯(マイナス5℃~マイナス1℃)に"30分以上"留まって食品を冷凍します。
この最大氷結晶生成帯に留まる時間が長いほど、食品中の氷結晶は大きくなりますが、この氷結晶が大きくなると食品の組織が破壊され、品質に悪影響を及ぼしてしまいます。皆さんも経験あるかと思いますが、カレーを冷凍すると、ジャガイモが"パサパサ"になるのは、まさに繊維が破壊されているからです。
一方で「急速冷凍」とは、その名の通り急速に冷凍することを差し、最大氷結晶生成温度帯を"30分以内"に通過させることです。一気に冷凍するので氷結晶の成長を抑制することができ、結果的に食品の繊維を破壊しないため、美味しさを維持できるのです。この「急速冷凍技術」は、今では臓器移植など「医療の現場」でも使われており、世界に誇れるほどの技術です!
そして、この急速冷凍技術を用いて製造されるのが「冷凍ケーキ」です。言葉通り、ケーキを冷凍保存した食べ物で、実際に食べる際は、食べたい時間の"60分程"前から冷蔵庫にて解凍します。冷凍ケーキの場合は美味しさのピークを"解凍直後"にする必要がある為、製造段階で特別な配合が行われ、完成と同時に"-30度"で急速冷凍し、一気に旨味を凝縮します。
【冷凍する4つのメリット】
〇高品質(作り立ての味や旨味を一気に凝縮!)
〇スリップ(目的の場所までタイムスリップで、どこで食べても旨味が一定!)
〇利便性(必要な時に、必要な分だけ食べられる!)
〇ストック(長期保存可能で廃棄を少なくできる!)
ーーー
●実は、私もこの「急速冷凍」については、最近 知りました。
個人的には、どうしても「冷凍」という言葉が入ると、"グレードダウン"のイメージがあり、出来る限り食べないようにしていました。しかし 実は、生活のいたる所で「急速冷凍」技術は使われていて、一般の食材と何ら遜色が無いが故に、気づいていないだけでした。本当に凄い技術だと思います。
特に ケーキと言えば、どうしても賞味期限を気にして無理して食べることになるのが殆どですが、「冷凍ケーキ」なら賞味期限を気にせず好きな時に食べることができるのは、本当に革新的だと思います!
ーーー
一見 成長著しい企業に見えますが、実は「五洋食品産業」がここまで来る過程には「大きな事件」がありました。そして、ここまで成長したのは、つい最近のことです。
1975年に同族経営で始まった五洋食品産業は、当初はピザ用ナチュラルチーズの加工、ピザ・グラタンなどの製造を行っていました。そして、その販路を持つ利点を活かして「ケーキ」を作り、チーズと一緒に喫茶店などに商品を卸していました。
しかし、2000年11月に大きな事故が起きます。製造したケーキの一部にカビが発生していたのです。しかも その当時、別の大手食品会社で食中毒事件が起きており、世間は「食品衛生問題」に厳しい目を向けていました。
その為 瞬く間に、五洋食品産業の名が全国に知れ渡り、ケーキ以外の商品に至るまで返品・回収作業に追われる事態になりました。翌朝 社員さんが出勤すると、会社の前に戻ってきた商品が入ったダンボールが山のように積まれていたそうです。更に これに伴い、社長である「父の病倒」や「全社員の離脱」などが重なりました。この時に、現社長の「舛田 圭良氏」は、心の準備ができていないまま、必然的に社長になったのです。そして、残ってくれた数名のアルバイト員と一緒に、再起を決心されました。
●まさに…
現在の組織構成は、現社長 及び 残ったアルバイトやパートの方々(のちに社員)による「第2創業期」なのです。
売上が"ゼロ"になった五洋食品産業は、ほどなくして取引先から支払いの催促が始まります。この時には、社長は車を売り、質に入れられるものは全て”お金”に換えたそうです。更に 当時は資金繰りの知識も無く、最終的に行き着く所は消費者金融で、カードを何枚も作り、引き出せる限度額まで借りても、個人で用意できる お金はせいぜい800万円程だったそうです。そして、借りたはいいが、次に待っているのは返済で、実質「破綻状態」でした。
しかし 不思議なもので、このタイミングで「救いの手」が差し伸べられます。営業をしていた社長に、偶々 大手冷凍食品卸で品質管理責任者ををしていた男性が「どうしたの?」と声を掛けてくれたのです。回収事故を起こして会社が潰れそうだと打ち明けると、「それは大変だな。どこの会社なの?」と心配してくれ、更に「福岡の会社ですが」というと、「なんだ同郷じゃないか。私は品質管理担当なので、一度どんな工場なのか見に行くよ」といって本当に工場を訪ねてくれました。そして、実際に工場を見学するなり、「これは酷い。私が教えてあげるからやってみなさい」と食品製造の基礎を教えられました。
●更に それからひと時が経つと…
「生協」のバイヤーを紹介してくれ、首の皮一枚 繋がったのです。この時に、生協側でもプロモーションの一環として女性をターゲットとしたスイーツを目玉にしたいという思いがありました。更に 宅配事業を強化するために「宅配できる美味しいスイーツ」を求めていることを聞き付けました。
これが きっかけとなり、五洋食品産業は「冷凍ケーキ」の開発に至った訳です。
個人的には、事故自体は許されるものではありませんが…
それでも その事件があったからこそ「冷凍ケーキ」開発に至ったのであれば、それは偶然というより「運命」な気がしました。そして、破綻状態を経験し、それでも残った「社員さん」と「社長」の間では"血の結束"で結ばれたのだろと想像しました。そして、この根底にあるのは「社長の人間力」だと思います。
このような経験を経た組織だからこそ、ここまで成長できたのだと思いました。
若手の私には、想像すらできない世界です。
ーーー
それでは、そんな「五洋食品産業 株式会社」の"イケてるC.I."の一部を紹介します。
【Corporate slogan(コーポレート・スローガン)】
「元気な食で、元気な未来を。」GO!YO! の冷凍ケーキで、みんなに笑顔と元気を。
【経営理念】
「デザートの使命である『小さな幸せ』を、より多くの方にお届けすることにより『大きな幸せ』で日本を包み、元気で明るい未来を次世代に、そして世界にお届けすること」
【経営指針】
小回りの利いた「企画開発~生産~供給」までの、一貫した高品質なサービスをお客様にスピーディに供給すること
ーーー
【若手なりの成長の理由分析】
「五洋食品産業」の一番の成長理由は…
◆「科学的×職人的な商品創り」だと考えます。
これは、先に述べた通り 前職時に技術者という「科学的な世界」で過ごされた社長が、「職人的な世界」であるケーキ創りを極めたということです。
例えば…
冷凍ケーキの一層目は「ふっくら」で、二層目は「少しふっくら」でといった要望に対して、「水の配分」や「素材の配合方法」などを調節して実現することができます。社長曰く、これには日野自動車のエンジニア時代に学ばれた「有限寿命設計」という考え方が参考になっているそうです。
これは、レース用の車のエンジンに使われている設計で、例えば レース用の車のエンジンの場合は、一般車両の様に何年も長持ちする必要が無く、極端に言うとレースが終われば壊れてもいい為、耐久性は最低限で極限まで薄くし軽量化されています。この目的をどこに設定するかという考え方を、解凍時が美味しさの"ピーク"にする必要がある「冷凍ケーキ」にも応用したそうです。
このような商品を量産可能にし、新たな市場開拓を実現できたのは、エンジニア出身の「舛田 圭良氏」だからこそだと思います。「冷凍ケーキ」とは、"技術者要素"と"職人要素"から成り立つ食べ物なはずです!技術の横展開の発想が面白いと思います。
ーーー
それでは 更に、自分なりに成長理由を仮説ですが「3つ」上げさせて頂きます。
■1.「販売チャネルの多さ!」
*五洋食品産業の販売チャネルは「業務用」「小売」「宅配」「輸出」と多岐に渡ります。
〇「業務用」は、飲食店など。
〇「小売」は、スーパーやコンビニなど。
〇「宅配」は、カタログ通販をはじめ、自社のネット通販など。(ブランド名:SWEETS PRO)
〇「輸出」は、北米・アジアを中心の海外展開。
です。
冷凍スイーツだから、輸送に時間がかかっても質が落ちないという"メリット"を活かし、様々なチャネルを開拓しています。また、自社通販という直接消費者と関われる場を持つことで、お客さまの声をダイレクトに商品開発に活かせるはずです。
更には、輸出にも注力しています。
特に、アジア諸国では「スイーツ」が豊かさを象徴するアイテムとして注目されていることに加え、「メイド イン ジャパン」の品質、味、管理方法への評価も高いことから、アジア諸国へ積極的に進出しています。一つに頼らないチャネルの多さがあるからこそ、相互メリットを活かしたアピールができるのだと思います。特に、2020年にはタイへの進出に力を入れて、現地のコンビニなどに卸しています。
ーーー
■2.「いち早く新規市場を開拓したこと!」
*実は、私もこの「冷凍ケーキ」という言葉は、最近 初めて聞きました。どうしても冷凍という言葉を聞くと、"グレードダウン"や、"余り物"などといった悪いイメージでしたが、身近なところにあると知ってビックリしました。
五洋食品産業では、冷凍ケーキを、冷蔵品の代替品という"弱み"と捉えるのではなく、全国のお客さまに必要な時に必要な量を、美味しく自由に食べられるという"強み"に転換して、市場を開拓するという「逆転の発想」が中小企業らしいと思いました。これは、ケーキの"素人集団"だったからこそ、実現できたのだと思います。
因みに、私も五洋食品産業の冷凍ケーキを食べましたが、"フワフワ"と感じる部分もあれば、シャキシャキと感じる部分もあり、様々な食感を楽しめました。もちろん、味もとても美味しかったです!
ーーー
■3.「製造のシステム化!」
*五洋食品産業では、工場の自動化やスマート工場化を積極的に進め、人手だけに頼らない「モノづくり」を目指しています。このことで、「味」という物を科学的に分析し、解凍直後に旨さのピークを持ってこれるように、様々なデータを分析できます。製造工程の素材管理から製造、保管、出荷までコールドチェーン(低温流通体系)を体系化し、冷凍ケーキの特性に合わせ様々な低温度帯で調整しながら、素材の鮮度や風味を保っています。実際に、社長のエンジニア時代に体に染み付いたノウハウを活かし「Best 解凍時製法」という今迄のデータを活かした独自の製造法を開発されています。投資にも積極的で、2010年には糸島市に総工費7億5千万円を投じ最新の工場を建てられ、更に2012年には「TOKYO AIM 取引所」に株式を上場されています。
人間の勘だけに頼らず、蓄積されたデータを駆使するからこそ、顧客の味の要望にしっかり応え、且つ その製品を安定的に大量に生産できる能力を得ることができるのだと思います。
ーーー
◎と言うことで…
「五洋食品産業」について、勝手ながら分析させて頂きました。率直に私がよく行く「糸島市」に このような会社があることに"ビックリ"しました。
是非 一度、工場見学をしてみたいです!そして 一度は、破綻状態になりながらも、それでも社長を信じ残ってくれたメンバーと一緒に企業がここまで成長した理由は、間違いなく社長の「人間力」だと思いました!
そして まさに、今年は「新型コロナウイルス」の影響で、生活の在り方が、様変わりしました。特に、在宅率があがったことで、冷凍食品市場も約1.3倍の成長をしました。一度 このスタイルに慣れると、コロナが収束しても今迄のスタイルに戻ることはないと言われています。その為、今後も長期的な「通販・宅配」や「保存需要」の増加などにより、「冷凍商品」市場は 益々 大きくなるはずです。
しかし 、逆の見方をすると…
今後 冷凍ケーキが当たり前になると、冷凍食品を製造している大手企業が冷凍ケーキの分野に進出してくるはずです。そういった意味では、現状 卸に頼っている売上構成比を直販にシフトし、「冷凍ケーキと言えば、五洋食品産業」という印象を、いち早く植え付けることが"最優先"だと思います。
個人的に失礼ながら、冷凍ケーキのブランド名とされている「SWEETS PRO」という名から「冷凍ケーキ」が結びつかない、更には「五洋食品産業」の社名とロゴが先行していて、企業・商品の見せ方、見られ方のイメージが一致していないことが気になりました。
ーーー
●最後に、C.I.について若手なりに一言いわせて頂くと…
事業内容と技術が、面白い会社だけに、少しもったいないと感じます。
失礼ながら、抽象的な言葉が並んでいると思います。「Corporate slogan(コーポレート・スローガン)」の「元気な食で、元気な未来を。」という言葉も、「五洋食品産業 株式会社」だからこその、不変的な想い(あるべき姿/成し遂げるゴール)が伝わり難く、一般消費者から"共感"を得られにくいと感じました。五洋食品産業が、冷凍技術を活かして実現したい世界を言語化することで、"らしさ(個性)"が、より際立つのだと思います。
今後 伸びる市場だからこそ、C.I.の再整備をお勧めします。その結果として、きっと「社内外」への打ち出し方も明確化になり、「企業ブランド」の強化に繋がると思います。そして それが、結果的に力を入れられている「To C 事業」の強化に繋がると思います。
出来れば、コンカンが提唱するC.I.と、御社のC.I.を一度 照らし合わせて頂けると有り難いです。
*concanが考えるC.I.とは?
長くなりましたが、以上になります。
Comentarios