今日は 若手社員の私が、成長している企業のC.I.を紹介します。価格競争に陥り易い「豆腐市場」に於いて、普通とは 真逆の戦略を展開し成長した企業が京都にあります。
第8回は、徹底的に差別化にこだわり、豆腐業界では有名な存在となった「男前豆腐店 株式会社」です。
「男前豆腐店」は、豆腐を中心とした食料品の製造・販売をしている企業で、本社は京都府にあります。2005年に現社長の「伊藤 信吾氏」によって設立され、年商60億、従業員180名で、豆腐を主力に成長し続ける企業です。有名なのは、「男前豆腐」「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」で、皆さんもスーパーの豆腐売り場を通ると、パッケージにインパクトが強い名前やイラストが描かれた豆腐を見たことがあるかと思います。そんな、ド派手な豆腐を販売するのが、「男前豆腐店 株式会社」です。
私も大学生の頃は、お金があまりなく、腹に溜まり易いという理由でよく「豆腐」を食べていましたが、その時に男前豆腐店のド派手はパッケージを、よく見ていたことを思い出しました。
「伊藤 信吾社長」は、1968年 千葉県に生まれ、91年明治大学を卒業後、シンガポールの貿易会社に就職されます。その後、東京・築地場内の水産会社勤務を経て、1993年に父が社長を務める茨城の「三和豆友食品」に入社しました。そこで 商品企画に携わり、2004年に独自のマーケティングセンスで「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」という豆腐を販売しました。これが、奇抜なネーミングやパッケージで、これまでの豆腐のイメージを覆し、女性の心を掴んだヒット商品で 一躍有名になったのです。そして 2005年3月には、父の会社から独立し「男前豆腐店」を設立しました。
「男前豆腐店」の商品は、今やセブンイレブンなどの大手コンビニにも並び、1丁200円を超える高級豆腐が1日、5万丁も売れています。同業他社は、次々と倒産 激しい価格競争にさらされている豆腐業界に於いて、スーパーの下請け構造から脱却するため、新たな戦術で勝負に出て、"豆腐"という伝統的な食材に、敢えて 真逆のブランド戦略を駆使し、度肝を抜くやり方で、成功を収めました。
因みに 豆腐製造を行う事業者数は、平成元年には「約22,000」あったものが、今では「約8,000」と縮小している市場です。
その要因は「2つ」あります。
●1つ目は、「単純な市場規模の縮小」です。
*少子高齢化の進展により、国内市場のパイは縮小していて、特に豆腐は 今の若者の和食離れにより、大きな影響を受けています。
●2つ目は、「技術や流通の革新」です。
*以前であれば、豆腐は 大量生産が難しく、日持ちしないことから遠隔地への輸送が難しい、という特性があったことから、小規模店舗が地元の小規模商圏で販売するのが主流でした。しかしながら、生産技術や冷蔵技術の進歩、そして 流通網の発達で 広域への配送が可能となり、スーパーでの販売が次第に主流となっていきました。それに伴って、小さな事業者が潰れて行ったのです。
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それでは、そんな豆腐屋さんとは思えない戦略で急成長した、「男前豆腐店 株式会社」のC.I.を紹介します。
【社訓】
本物の男前は あなたを裏切ったりしない
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【若手なりの成長の理由分析】
「男前豆腐店」の一番の成長理由は…
●「業界の常識を無視し、徹底的に差別化に拘った点」に尽きると思います。
豆腐と言えば、通常 どの商品を購入しようと味覚に それほど大差はありません。そのため、どの企業も"あっさり"とした、味覚に特徴のない商品を市場に投入してきました。このような市場では「豆腐といえば××」というブランディングも成されてきませんでした。このように 保守的で、各企業の商品にこれといった特徴の無いマーケットでは、他社と全く違った方法で、市場にアプローチすれば、自ずと目立つことが可能です。
そこで 伊藤社長は、豆腐業界という古い慣習によって支配されている保守的な業界に於いて、「奇抜なネーミング」や「他社が提供する商品と逆の味覚」の商品を投入し、短期間で豆腐市場に於いて、一躍 有名となりました。
そして、「おいしいだけでは、売れない。目立つために何が必要か」というのを徹底的に問い続け、ネーミングだけでなく、豆腐のために、オリジナルの楽曲まで作り、客が買いたくなる"世界観"を表現するほどに拘りました。
そんな 伊藤社長のモットーは、「遊びながら考える。考えて面白いのが一番。作ることが面白くないものは商品化しない」というものです。
勿論 伊藤社長が、このように業界の常識を無視するのには理由があります。それは…
「それまで、豆腐が1丁10円の特売品で売られているのが当たり前で、ほぼ 利益が出ない地方の豆腐店には、製造を続けることはできないのが殆どで、危機感を覚えたから」です。
そこで「脱・価格破壊」のメッセージを込め、業界に疑問を投げかける形で、2003年 父が経営していた豆腐会社から発売した商品が「男前豆腐」だったのです。因みに 価格は300円。これは、当時の業界では絶対にあり得なかったことです。
差別化という言葉は、経営の世界ではよく使われる言葉だと思いますが、それを中途半端に実践するのではなく、徹底的に振り切っていることが凄いと思いました。頭では、分かっていても実践するとなると、本当に"勇気"がいることだと思います。 ーーー
それでは、更に 若手なりに成長理由を仮説ですが「3つ」上げさせて頂きます。
◆1.「社長の露出度!」
*先ずは、「男前豆腐店」を知ってもらう為に、積極的に社長自身が広告塔となって、メディアに露出して商品の認知度アップに努めました。2005年9月には、日本テレビ系の人気番組にも出演し、芸能人とのコラボレーションで新たな豆腐開発を行うというプロジェクトを発足させています。
この時に メディアに出た数は、どこの社長よりも多く、これには 多額のお金も払われたそうです。しかし 初期投資として、必ず会社の売り上げに繋がると確信していたそうです。この理由を、本人は「野生の勘」と述べられています。
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◆2.「"楽しさ"というコンセプトを売り、記憶に残る存在を目指したこと!」
*商品は、知ってもらった後に 消費者の記憶に残らなければいけません。その点「男前豆腐店」の提供する商品は、どれも記憶に残る変わったネーミングです。「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」などは、一度 その名を店頭で見かけると忘れることはありません。
パッケージも店頭で、最も異彩を放っています。豆腐といえば、四角のパッケージが多い中、「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」」は、サーフボードのような大振りな楕円形のパッケージをしていて、一度 手に取ると、手の感覚としても忘れることが出来ません。価格も「300円」と、「100円」前後の価格帯が多い豆腐の中で、突出していて、消費者にとっては 一度 店頭で見かけると気になる存在になるのは当然のことだと思います。
*そんな、異彩を放つ 伊藤社長が、真にお客に提供したいのは"豆腐"という商品だけではなく"楽しさ"というコンセプトです。その為に「男前豆腐店」には、ストーリー設定からテーマソングまで「男前豆腐」という商品を中心に、実に お客が楽しめる要素が満載です。"男前豆腐"と言う商品は、その"楽しさ"というコンセプトの一つの要素に過ぎないのです。
因みに 男前豆腐店とは、「ニューヨークの地下に潜んで 豆腐を製造し、豆腐を全世界に広めようと画策している秘密結社」という設定で、誰も顔を見たことが無いボスの"ドン"を頂点に"オサム"、"お嬢"、"タモツ"の3人が日夜、豆腐を世界に広めるべく活動している企業と紹介されています。
「男前豆腐」のファンの中には、そのようなストーリーを連想し、楽しみながら豆腐を食している人も多く、ワクワクすることがあれば、他の人に伝えたくなるのが「心情」だと思います。そのような気持ちは、ブログ・SNSというインターネットを介して人から人に伝わり、爆発的に認知度がアップしていく要因にもなったのです。
私が、特に凄いと思ったのは、見た目は 勿論のこと「一度 手に取ると、手の感触で忘れられない形状にする」という発想です。細部にまで計算し尽くされているのだと思います。
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◆3.「半端ないほどの商品へのこだわり!」
*勿論、多くの人に知って貰って、ストーリーで楽しんで頂いても肝心の商品がダメだと、広まることはありません。その点、伊藤社長の商品へのこだわりも、人一倍 強いものがあります。従来の豆腐市場では、地域にも老若男女にも関係なく、無差別マーケティングが主流の中、「男前豆腐店」が狙うのは「20~30代の若い世代」であり、男前豆腐店では、他社があっさりした豆腐を提供する中で、逆に豆本来の味を活かしたこってりとした豆腐作りを心掛けています。
「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」では、特別の製法を開発して従来の豆腐にはない柔らかさと甘さを実現しています。実は、これは デザートとしても通用するような豆腐を目指してできた商品なのです。また「男前豆腐」は、豆腐をより美味しく食べて貰う為に、パッケージを改良されています。それは、豆腐はゆっくり時間をかけて水分を抜いていくと美味しさが増しますが、「男前豆腐」では、底が2重構造のパッケージを導入し、販売している間に水分が抜けて、食べる頃には最高の美味しさになるような仕掛けが施されています。
因みに、「水もしたたるいい豆腐(男)」という連想で「男前豆腐」と名付けられ、それが、社名となったのです。
「男前豆腐店」では、変わったネーミングやパッケージに注目が集まっていますが、実は 豆腐の概念を覆すような、他には真似の出来ない"こだわり"が真の強みなのだと思います!
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◎ということで…
若手なりに「男前豆腐店さん」を、分析してみましたが、差別化に徹しているところが全てだと感じました。個性的な"世界観"を作り出し、コアファンを味方に付けているところが、凄いと思います。実は「男前豆腐店」は、豆腐屋でありながら、「男前豆腐店の関連グッズ」でも売り上げを上げていて、ジャージ(4,000円)や前掛け(2,000円)、タオル(1,000円)など、かなりの売れ筋となっています。豆腐というより企業自体の世界観を醸し出し、グッズ販売などに繋げてしまうのは、本当にやり方が上手で、とても勉強になります。
そして 私が、何より"凄い"と感じたのは、儲かる市場に行くのではなく、豆腐市場を「脱・価格破壊」から守るという 元々 ある"想い"で経営されているところです。企業が成長しても、豆腐製品に絞り、今でも色々な種類の豆腐を作られています。表現は、"ド派手"でも そこには 社長の強い想いがあるところが素敵です。
ということで、「男前豆腐店」を私なりに一言でいうと、「ド派手でカッコ悪いのが、逆にかっこいい!」というのが印象です。
しかし 今後の豆腐市場は、かなり厳しい局面にあります。今回の「新型コロナウイルス」の影響で在宅時間が増え、スーパーでの豆腐販売数量は、約1.3倍ほど伸びましたが、それは 一部の企業の商品だけで、逆に殆どの企業の売り上げは下がり続けている一方です。また 豆腐市場は"弱肉強食"が顕著で、頻繁にM&Aが行われ、いつライバル企業が登場するのか、分からない市場です。
個人的には、例えば「チョコレート風味の豆腐デザート」や「お酒に会う豆腐」など、今までの通常の食事のシーンだけに食べるものから、食間のシーンで食べられるような豆腐があれば良いなと思いました。その為に、有名なアイスクリーム店とコラボし、「男前豆乳アイスクリーム」などを販売して頂けると良いなと思いました。
また、せっかく面白い"世界観"を創られ、ファンも多く抱えられているので、SNSなどを使ってファン同士が交流できるような仕組みがあれば面白いと思いました。ファン同士が繋がることで濃密なコミュニティとなり、ファンが新たなファンを呼ぶ仕組みが出来ると思いました。
適当なことを言って、申し訳ございません。。。
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◎最後に、若手なりにC.I.について一言いわせて頂くと…
先ず、「本物の男前は、あなたを裏切ったりしない」というC.I.まで"世界観"創りが徹底されていて、とても面白く、個性的だと思いました。企業文化として、楽しむことを徹底されていることが、このC.I.からも伝わります。
ただ、今後 企業を大きくされる場合には、現状のC.I.は 社内向けの言葉になっているので、企業の外向きの言葉として「企業理念」=企業が成し遂げたいゴールを、しっかり言語化することも必要だと思います。一度 原点に立ち返り、豆腐屋を始めた理由などを言語化することで、自ずと この事業を通して成し遂げたいことが見えてくると思います。その上で、「男前豆腐店」らしい"尖った"表現にすると、より個性的で共感も得られ易いと思います。また これからは、その「企業理念」に付随する形で、"行動指針"や"行動規範"も制定する必要があると思います。
あくまで、コーポレートサイトに記載がなかったので、こういう表現をさせて頂きました。
出来れば、コンカンが提唱するC.I.と、御社のC.I.を一度 照らし合わせて頂けると有り難いです。
*concanが考えるC.I.とは?
生意気言って、申し訳ございません。
長くなりましたが、以上になります。
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