今日は 若手社員の私が、成長している企業のC.I.を紹介します。一般とは真逆の戦略で成長した企業です。
第56回は、関東を中心にラーメン中華料理店「日高屋」を運営している「株式会社 ハイデイ日高」です。
【会社概要】
*「ハイデイ日高」は、大衆ラーメン中華料理店「日高屋」を運営している企業です。特徴は、多彩なメニューを低価格で提供していることです。首都圏で展開し、都道府県別では東京都209店、埼玉県111店、神奈川県70店、千葉県51店、茨城県3店、栃木県1店となっています。売上は「約311億円(2021年)」となっており、コロナ禍の影響を受ける前は、破竹の勢いで成長してきた企業の代表格とも言えます。1999年には「JASDAQ」に上場し、2005年には東証2部、翌年には東証1部にまで上り詰めた、凄い企業です。
【企業ヒストリー】
*実は現会長の「神田氏」(80歳)は、「ハイデイ日高」の創業者です。一代で売上300億まで成長させた敏腕商人です。とは言え、過去を振り返ると苦労続きの人生でした。「神田氏」は小学校6年生の頃から、怪我で軍人として働くことができなかった父に代わり、家計を支えていました。やれることは何でもやっていた「神田氏」は、1953年から約4年間、休日になると「霞ヶ関カンツリー倶楽部」にゴルフに来る在日米兵のキャディを務めていました。その時を振り返り、「当時の私は とにかくカネがすべて。英語は分からないので、身振り手振りで、相手をほめ、ご機嫌をとって、ジュースなどを買ってもらっていた」と言われています。
中学生になると、キャディに加え、新聞配達を始め、卒業後は箪笥の金具を作る製作所、浄水場の塀作り、鉄工所でのベアリング作り、運送屋、土建屋、キャバレーのボーイなど、何と「15以上の職」を転々としました。一番 長く続いたのが「本田技研工業」の工場で1年半だったそうです。その「本田技研工業」では、働きが認められ正社員に登用されるも 単調な仕事に飽きて、辞めてしまったそうです。
「神田氏」は当時から、「お金がなくなると、家にも帰らず、野宿して過ごすような悪ガキ」だったそうです。そんな「神田氏」の人生に転機が訪れるのは、1968年 27歳の時です。パチプロとして生計を立てていた「神田氏」は、知人の頼みで埼玉県岩槻市のラーメン店の雇われ店主になったのです!
この経験を振り返り「面白かったんですよ。ラーメンを作るのは難しくないし、売れた分は現金になってすぐに入ってくる。貧乏だったので、現金に触れることやカネ儲けの仕組みを知ることが楽しかったんですよ」と言われています。 ここから経営にのめり込み、店の売り上げを拡大させるも、次第に"天狗"になってしまいます。スナック経営に手を出し、その失敗が元で、1年後にはラーメン店を潰してしまうことになるのです。 しかし そこで へこたれない「神田氏」は、32歳の時に現在の「日高屋」につながる「来来軒」を大宮駅前に開店します。偶然、家賃 月2万円という破格の安さの5坪の物件に出会い「現金を手にできる感動」が甦ったことから、ラーメン店としての再スタートを切ることにしたのです。 チェーン展開を考え始めるのはこの頃からで、当時 ラーメン店といえば、3~4年修業して、自分の店を持つのが普通でした。ただ それでは、数店舗の経営が限界であり、客よりも、自分のことだけを考えて、行き詰まることにもなると考え、実弟(現取締役の町田功氏)と義弟(現社長の高橋均氏)を口説いて、3人で共同経営する道を選びました。 つまり このような貧乏と失敗の経験が、当時としては珍しいラーメンチェーンを生み出すきっかけになったのです。その後「神田氏」は、心を入れ替えたように、ラーメン店経営に打ち込み、1978年には組織を法人化し、 1986年には原材料を加工して配送するための「セントラルキッチン」を作り、大量生産によって低価格を実現しました。 今でこそ、このような業態は普通になりつつありますが、当時は、「ハイデイ日高」が初めてこの仕組みを創り上げました。ここから 一気に成長することになったのです。 ーーー ここで、居酒屋の現状を見てみます。 【 居酒屋業界について 】 実は、2018年までの10年間で、売上98.5%、店舗数98.3%、客数98.8%、客単価99.6%と微減しており、売上、客数に至っては10年連続で前年を下回っている状況です。この背景には、「若年層のアルコール離れ」、「働き方改革による残業の減少」、「消費者の嗜好の多様化」などが挙げられます。 更に「酒類市場」の観点から見てみると… 2001年ごろをピークに規模は減少傾向で、年代別に見た「飲酒習慣率」を見ても、50代が「42.5%」に対し、20代は「4.7%」とかなり低い傾向となっています。近年の若者の「アルコール離れ」は顕著となっており、居酒屋業界にとっても深刻な問題になっています。 また 近年では、ファミレスでのアルコール類の提供など他業種の居酒屋部門の参入が増えています。これによって、居酒屋の収益力の低下に繋がっているのです。更には、働き方改革による残業の減少によって、以前のような「仕事帰りに ちょっと一杯」といった習慣も薄れ、「家飲み」が流行るなど消費者のライフスタイルの変化もみられます。 このように、居酒屋業界を取り巻く環境は、厳しいものとなっています。 ーーー それでは ここで、そんな厳しい業界で戦われている「株式会社 ハイデイ日高」の、"イケてるC.I."の一部を紹介します。 【経営理念】 1.「使命」私たちは、美味しい料理を真心込めて提供します。 2.「挑戦」私たちは、夢に向かって挑戦し、進化し続けます。 3.「感謝」私たちは、常に感謝の心を持ち、人間形成に努めます。 【経営ビジョン】 1.安心・安全な食材で、おいしい料理を、低価格で提供する。 2.事業活動に関わるすべての企業・関係者との共存共栄を図る。 3.従業員の個性・人格を尊重し、公平公正な評価と処遇を行う。 4.共に夢を共有し、会社の発展と理想の就労条件の実現に協力する。 5.企業市民として社会規範を遵守し、地域社会及び地球環境との共生を目指す。 6.積極的な情報公開、適切なコミュニケーション活動により、社会との相互理解に努める ーーー 【若手なりの成長理由 分析】 ここからは、若手なりに「株式会社 ハイデイ日高」の成長理由を、仮説ですが "3つ"上げさせて頂きます。 先ず、結論からいうと… ◆1.「敵を集客に利用する究極のコバンザメ戦略」 ◆2.「一等地でも利益を出すための、『長時間営業』と『セントラルキッチン方式』! 」 ◆3.「人間の心理を突いた戦略!」 の"3つ"です。それでは、1つずつ見ていきます。
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◆1.「敵を集客に利用する究極の『コバンザメ戦略』!」
*「日高屋」の成長を支えてきたのが、独自の出店戦略です。それは、「先行して多店舗展開している『マクドナルド』や『吉野家』の近くに店を出す」というものです。一見 そんな2社の近くに「日高屋」が意識的に店を出すのは、無謀な戦いを挑んでいるように思えます。
ところが そこに、「神田氏」の洞察力と長年の経験に裏打ちされた戦略が隠されています。 「マクドナルド」や「吉野家」には、ファン・固定客がついています。でも いくら「マクドナルド」や「吉野家」が好きな人でも、朝昼晩の3食を 全て"ハンバーガー"や"牛丼"で済ませる人は居ません。朝に「マクドナルド」を食べたら、昼は「吉野家」、そして 夜はビールでも飲みながらギョーザを食べて、締めはラーメンというのがありがちなパターンだと思います。「神田氏」はそこに目をつけ、一見 強力な競合相手となりそうな「マクドナルド」や「吉野家」の店舗の近くに「日高屋」を出店していきました。
*更に「マクドナルド」や「吉野家」は、自社調査に基づいた 大手ならではの緻密な出店戦略があります。駅の乗降客数や人の流れを見極め、家賃相場なども踏まえながら、店が採算に乗るかどうかを2社が、既に検討してくれているのです。これを「日高屋」で行えば、"人手"も"お金"も"時間"も掛かります。しかし 「マクドナルド」や「吉野家」の近くに出せば、立地調査は既に2社がやってくれているという訳で、「日高屋」はスピーディーに出店できるという"メリット"があります。
本来 強敵となるはずの競合他社で、しかも 業界のトップ地位にある、出来れば まともな戦いは避けたい相手をうまく利用しています。いくら 大手の競合とはいえ、「飽き」という人間の性質を利用した、見事な戦略だと思います!
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◆2.「一等地でも利益を出すための、『長時間営業』と『セントラルキッチン方式』! 」
*先に述べた通り、「日高屋」は、「マクドナルド」や「吉野家」の近くに出店しています。しかし 大きな問題が出てきます。それは 、「家賃の問題」と「価格帯の問題」です。 「マクドナルド」や「吉野家」の店舗の多くは、自然と駅前などの一等地にあります。つまり 「日高屋」が、「マクドナルド」や「吉野家」の近くに出店しようとすれば、当然 家賃も高くなります。「日高屋」以前のラーメン店の殆どは、メイン通りから一本外れた路地や、駅からは少し遠い2等地、3等地にあるか、幹線道路沿いのロードサイド店が一般的でした。これは、個人経営の店が多く、利益を追求しにくいラーメン店は一等地への出店は困難だったからです。
また、従来のラーメン店はラーメン1杯「500円~700円」程度の価格が主流で、「マクドナルド」や「吉野家」の価格帯よりも、一段 高くなっていました。そのままの価格帯では、低価格に慣れた消費者に受け入れて貰えなく、2社に太刀打ちできません。つまり、いくら「マクドナルド」や「吉野家」の近くに出店したとしても、従来のラーメン店と同じ収益構造では、高い家賃と高価格がネックになって、利益を出すのはとても困難なのです。
*そこで、この問題を解消するために行ったのが、「回転率を上げる『長時間営業』」と「低価格を実現するための自社工場を使った『セントラルキッチン方式』」です。
それまでのラーメン店の営業のピークは、「お昼 12時〜14時まで」と、「夜18時〜22時まで」までというのが一般的でしたが、これでは 高い家賃を払う程の売上は上がりません。しかし 「日高屋」の店の大多数が、深夜3時、4時までやっていて、新宿や池袋などでは24時間営業の店舗もあります。昼は「ラーメン中心の中華食堂」、夜は「中華食堂+居酒屋」、深夜は「仕事が終わった水商売の従業員の食事」という時間別のニーズに応え、「回転率」を最大限に上げる戦略を取っています。
*また 低価格を実現するための食材の加工工場の設立も早くから行い、最新鋭工場の「行田工場」を2005年に開設しています。この自社工場を使った「セントラルキッチン方式」の導入で、コストを下げ、低価格化を実現するとともに、味をどの店でも一定水準以上に保つことができるようになりました。チェーン展開という過去のラーメン店がなしえなかった「ビジネスモデル」を見事に成功させているのです。
ーーー ◆3.「人間の心理を突いた戦略!」 *「日高屋」の店内を見てみると、テーブルは小さく、カウンター席が殆どです。これは 狭いテーブルは「長居しにくい」という、人間の本能的な本質を突いています。だから、消費者の滞在時間も短くなります。それは 結果として、回転率の速さに繋がっています。加えて、駅前なので安価な労働力(学生バイトや留学生)を雇うのも簡単という"メリット"もあります。何故なら、彼らは人口の多い郊外の近所のアパートに住んでいるからです。 *また 意外にも「日高屋」は、料理を「美味しくし過ぎないようにする」という考えがあります。何故なら、何でも「美味し過ぎると飽きてしまい、毎日 来たくなくなる。『日高屋』は、毎日 来て欲しいから、家庭で作る中華より少しだけ美味しいという感じを大事にする」という、人間の心理を考えているからです。「日高屋」の常連さんに話を聞くと、「美味しいラーメン屋は沢山あるが、価格的にも優しく、毎日 通っても それなりのメニューの種類があるので飽きないし、気楽な格好でいけるから好き」という回答が多くあるそうです。
本当に人間の心理をついた、面白い戦略だと思いました! ーーー ◎と言うことで… 「ハイデイ日高さん」を一言でいうと、大手の近くには出店しないという 世間一般的なビジネスモデルの真逆を行くという『コバンザメ戦略』が凄いです。そして 戦略を一つ決めると、客単価など、俯瞰的に見た時に 自ずとやるべきことが見えてくるのだと思いました。とは言え、一連した戦略を見出すのが当事者になると、難しいと思います。「日高屋さん」の場合は、創業者である「神田氏」の商人センスが、凄かったのだと思いました。 今まで成長企業を調べて来た上で感じたことは、「必ず一つは明確な差別化要素がある」ということでした。しかし 「日高屋さん」がやられていることは、明確な差別化要素があるという訳ではなく、むしろ 大手の隣に出店するという「コバンザメ戦略」で、とても斬新でした。これは 外食産業という「飽き」が付き物という産業だからこそできるのだと思います。 また 「ハイデイ日高さん」が素敵だと思ったことが、食べログなどの「レビューサイト」で、「店員さんの対応が気持ちいい」という声が多くあったことです。この「コロナ禍」での居酒屋のあり方として、「『チェーン的』な店→『人の魅力』を売る店」という流れがあります、そして それを実践されているのが、業界No.1に上り詰めた「やきとり大吉さん」です。そういった意味では、チェーン化された飲食店が多く立ち並ぶ一等地に、「日高屋さん」みたいな、人情溢れるお店があると、それだけで魅力に映るのだと思います。
ただ 若手なりに、一つ疑問に感じたことを挙げさせて頂くとしたら… ●薄利多売のビジネスにも関わらず、何故 キャッシュレスに対応されていないのかが、疑問に感じました。 調べてみると、毎日のお金の「締め作業」に、業界平均で「40分ほど」時間が掛かっています。ここを キャッシュレス対応することで、「締め作業」が無くなり、最も 負担の大きい人件費を削減することができるはずです。とは言え、これは ある種 当然のことで「日高屋さん」も認識されていると思うので、何故 「ハイデイ日高さん」がキャッシュレスに対応されないのかが気になりました。
ーーー ●それでは 最後に、C.I.について、若手なりに一言いわせて頂くと… *「ハイデイ日高さん」の「経営理念」「経営ビジョン」ともに難しい表現がなく、分かり易いと思った一方で、少し 「ハイデイ日高さん"らしさ"」が表現されておらず、勿体ないとも思いました。失礼ですが、どちらかという当たり前のことを言語化されていて、他の飲食企業に転用することもできると思います。もちろん C.I.に個性があることが"正解"という訳ではありませんが、競争が激しく、差別化が難しい飲食産業にあるからこそ、C.I.で"らしさ"を表現することで、一般消費者からも共感を得やすくなると思いました。
また 「ハイデイ日高さん」は、「経営理念」と「経営ビジョン」を区別されていますが、共に 社内向けの表現になっていて、何が違うのかが、少し分かり辛いと思いました。
コンカンでは、「経営理念」や「ビジョン」の在り方を定義しています。 出来れば、コンカンが提唱するC.I.と、御社のC.I.を一度 照らし合わせて頂けると有り難いです。 *concanが考えるC.I.とは? https://www.concan.co.jp/post/topics-ci 本当に、若手が生意気ばかり言って、申し訳ございません。 長くなりましたが、以上です。
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