今日は 若手社員の私が、成長している企業のC.I.を紹介します。 一般の小売業とは"真逆"の「ビジネスモデル」を展開し、30期連続で"増収増益"を続けている企業があります。
第3回は、若者の集いの場ともなっている総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」を全国に展開し、ここ30年で一気に小売業界の第5位まで上り詰めた「株式会社パン・パシフィック・インターナショナルHDG(PPIHグループ)」です。(2019年に持ち株会社体制へ)

「ドンキホーテ」の特徴と言えば、あの山積みにされた商品たちです。 私も大学生の頃は、特に欲しいものがある訳でもないのに、「なんか良いものないかな〜」っと"宝探し"気分でよく行っていました。 また、暇潰しにもなるので、友達との集合場所にもよく「ドン・キホーテ」を使わせて頂きました。
そして、実は… 店内で焼き上げられている「石焼き芋」がめちゃくちゃ美味しいです!
因みに「ドン・キホーテ」という名前の由来は…
スペインの文豪セルバンテスの名作にちなんで名付けられたそうです。
その作品の主人公が「ドン・キホーテ」です。
彼は、「行動理想主義者」で、それ故に様々な悲喜劇が生んでしまいますが、それでも既成の"常識"や"権威"に屈しない人でした。
その姿のように、「新たな流通業態を創造したい」という会社の願いで命名されたそうです。
ーーー そんな、PPIHグループの中心事業であるディスカウントストア「ドン・キホーテ」は、安田 隆夫氏(非常勤役員)によって、1988年に第1号店が東京都の府中にオープンし、今では日本全国に573店舗、海外にも29店舗を構えるグローバルストアへと成長しました。(本社:東京 従業員数:13,546名)
●売上高は、1兆3,288億円(グループ全体/2019年)を上げ、大手企業の多い小売業界に於いて"第5位"まで上り詰め、更には 設立以来「増収増益」を続けています。
【小売業界売上高ランキング/2019年】
「会社名/売上高」
◆1位:イオン/8.5兆円
◆2位:セブン&アイ/6.7兆円
◆3位:ファストリテーリング/2.2兆円
◆4位:ヤマダ電機/1.6兆円
◆5位:パン・パシフィック・インターナショナルHDG/1.3兆円
(参照:日経新聞)
小売業界全体の市場規模は、約142兆5,140億円ほどありますが、ほぼ横ばいが続いている状態です。
しかし その内訳を見てみると、百貨店、スーパー、コンビニエンスストアの業態では、1店舗当たりの売上高は年々 減少しています。
その分 店舗数自体の増加により全体の売上高が横ばいとなっている状況で、まさに競争の激しい市場です。
ーーー そんな競争の激しい小売業界に於いても成長著しい「ドン・キホーテ」ですが、創業者である「安田 隆夫氏」は、本当に"波乱万丈"な人生を過ごされています。
岐阜県で幼少期を過ごした「安田隆夫氏」は、高校卒業時に東京に憧れるも、厳格な父から「良い大学に進学すれば、上京を許す」と言われました。 その為、猛勉強に勉強を続け、なんとか 慶應義塾大学法学部に合格することができました。
しかし… いざ上京するも、同級生が自分の車を所有していたり、立ち振る舞いが洗練されているのに、自分は「田舎感を丸出しで、何のコネも取り柄もない貧乏学生」であったことから、かなりの劣等感を感じ、全く大学に馴染めずにいました。 その頃に「ボクシング」にハマり、ボクシングジムに通う毎日だったそうです。 そして、本気でプロを目指すも、子供の時に逢った交通事故の影響で視力が悪く、プロテストを受けることが出来ませんでした。
ボクシングの夢は諦め、何とか大学を卒業し小さな不動産会社に就職するも、オイルショックの影響で会社が、すぐ潰れてしまうことに。
その後も、分譲住宅のセールス会社に勤めるも、全く成績を上げられずに4ヶ月で会社を辞めることになりました。
それ以降は… フリーターで"ふらふら"過ごしながら「麻雀」にハマる毎日で"自堕落"な人生を過ごされています。
そしてついには… 所持金が残り"5円"となり、ゴミ箱から拾った新聞紙の求人広告から、日雇いのバイトをしました。その時に既に、20代後半になっていました。
この頃に、本気で「ヤバい」と感じ、初めて本気で焦りを感じたそうです。
とは言っても、何のスキルも無く、自分で出来ることがありませんでした。
ーーー そんな中で辿り着いた答えが、「雑貨屋」でした。 安田氏 曰く、「隣のおっちゃんが一人で質屋をやっているのを見て、誰でもできる」と思ったそうです。 20坪の小さなスペースに、「泥棒市場」というお店を構えました。 しかし、簡単に上手く行く訳もなく、開店して"3ヶ月"で夜逃げ寸前までになりました。
そんな時、やっと「運気」が訪れます。 "夜中"に全く売れない在庫を整理していると、お客さんが「まだ営業している」と勘違いして来店したのです。 せっかく来てくれたのだからと対応していると… 何と その後も続々と「営業中」と勘違いした人が訪れたのです。
ここから、安田氏は「深夜営業」に活路を見出しました。 この時には、コンビニもまだ24時間営業をしておらず、「泥棒市場」は夜中もやっている店と口コミが広がり、一気に売上を伸ばしたのです。
軌道に乗った「泥棒市場」は、1988年に、東京の府中に「ドン・キホーテ」と改名して1号店を構えました。
本当に、安田氏の経験を表す"波乱万丈"な人生を過ごされています。
( ※安田氏の人生物語を記した本も出版されています。)
ーーー それでは、そんな安田氏が立ち上げ、今では超優良企業となった「株式会社パン・パシフィック・インターナショナルHDG」の"イケてるC.I."の一部を紹介します。
【企業原理】 「顧客最優先主義」
「顧客最優先主義」を、PPIHグループにおける不変の企業原理とする。 「顧客最優先主義」が全ての企業行動を規定し駆動させる。 「顧客最優先主義」を実現するために、「経営理念」を厳守しなければならない。
PPIHグループは「顧客最優先主義」を企業原理とし、いついかなる時も、お客さまの暮らしを支え、お買い物の楽しみを提供することを第一に、行動することを定めています。 それは経営においても、一人ひとりの社員においても同様であり、常に「我が店が何によって生かされているのか?」を自問自答し、「顧客最優先主義」を愚直なまでに突き詰めることこそが、成長の礎であると考えています。
【経営理念】 ◆第一条 高い志とモラルに裏づけられた、無私で真正直な商売に徹する ◆第二条 いつの時代も、ワクワク・ドキドキする、驚安商品がある買い場を構築する ◆第三条 現場に大胆な権限委譲をはかり、常に適材適所を見直す ◆第四条 変化対応と創造的破壊を是とし、安定志向と予定調和を排する ◆第五条 果敢な挑戦の手を緩めず、かつ現実を直視した速やかな撤退を恐れない ◆第六条 浮利を追わず、中核となる得意事業をとことん突き詰める
PPIHグループの六箇条からなる「経営理念」は、企業原理「顧客最優先主義」を実現するための行動指針として定めてられています。この企業原理と経営理念は、未来永劫不滅なPPIHグループ独自の矜持(きょうじ)と存在理由そのものにほかなりません。
※その他のC.I.「PPIHグループの店舗ビジョン」などについては、コーポレートサイトをご覧下さい。
●ここで自分なりに「PPIHグループ」を一言で表現すると… ◆「顧客最優先主義」の基、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」を全国展開し、10代後半~30代前半の安さ重視の世代に対し、どこよりも安い価格でバラエティーグッズなどを中心に身の回りのほぼ全ての物を、リアル店舗で販売している企業です。
*ただし、「ドン・キホーテ」の特色は、各店舗によって「ビジネスモデル」(どこの? 誰に? 何を?)を変えているところです。これについては、この後 説明します。
ーーー 【若手なりの成長の理由分析】 「ドン・キホーテ」の一番の成長理由は…
『企業原理を始めとした「C.I.の徹底」と、それを実現し易い「組織体制」が作られていること』だと考えます。
ドン・キホーテには「源流」と言われる社員全員に配布される経営理念や行動規範 所謂「C.I.」をまとめた"冊子"があります。 社長インタビュー始め、様々な記事を調べても、何度もこの「源流」という"言葉"が出て来ていて、C.I.の浸透ぶりが伺えます。 「源流」の中身は見ることが出来ず、コーポレートサイトにある"言葉"からしか判断できませんが、恐らく 現場での判断基準となる"行動指針"や"行動規範"まで この「源流」に記載されていると、勝手ながら想像しました。
そして、「ドン・キホーテ」は、この「C.I.」を支える「組織体制」が構築されています。 例えば 、一般の小売店の組織体制だと… 本部が頂点に、本部が商品を一括で仕入れたり、販売価格を一括で指定したりと、出来るだけ統一を図ることで、徹底的に無駄を省こうとします。それに対して、ドン・キホーテの「組織体制」は特殊です。
一言でいうと… 「権限移譲」です。 全ての業務を各店舗に完全に任せ、仕入れ、陳列、値付け、売り場づくりなどに本部が一切口出しすることはありません。
何故なら… 各店舗の従業員の方が、その店舗のお客さんにより近く より詳しい為、企業原理である「顧客最優先主義」を実現し易いはずと考えられているからです。
この「権限移譲」によって、各地域のニーズに合わせた、きめ細かい品揃えが実現できるだけでなく、現場のモチベーションアップといった効果が見込めます。
つまりは、約573店舗の「店づくり・MD、地域の競合店」に対しての戦い方は、全て異なるといっても過言ではありません。
店舗ごとに競合に対する局地戦を制した、その約573通りの必勝法の確立と、ノウハウとしての蓄積が、「ドン・キホーテ」の強さの"源泉"であると思います。更には、各店舗で異なった戦い方を行うことによって、たとえ失敗した場合でも、ダメージをその店舗だけに抑えることが出来るという"メリット"があります。
まさに…
「現場」の感覚を大事にし、店舗の社員に口出しをしない「組織体制」は"素敵"だと感じました。そして 社内でのしっかりとした「意識統一」がされているのだと思います。
ーーー それでは 更に、自分なりに成長理由を仮説で"4つ"上げさせて頂きます。
■1.「ドン・キホーテの組織体制だからこそ実現できる『居抜き』でのローコスト出店!」 *居抜き物件とは、「前テナントの内装や造作設備が残っている店舗物件」のことです。 これはよく飲食店などで行われる出店方法で、居抜き物件では 前テナントが残した内装や造作設備などをそのまま使うことができる為、出店費用を抑え、早期に営業が開始できるというメリットがあるからです。
一方では… 店舗形態の画一化でコスト削減を図る一般のチェーン店の場合、改装で逆にお金がかかってしまいます。 しかし… 「ドンキホーテ」の場合は、完全に各店舗に「権限移譲」を行なっている為、その居抜き物件に合わせたオリジナル性のあるレイアウトを作ることで、費用を抑えることができるのです。
■2.「圧倒的な品揃え!」 *「ドンキホーテ」では、常時 約50,000種類のアイテムを扱っています。 これは、一般のチェーンストアでは出来ないことです。 何故なら… 画一化を図る一般の店では、在庫効率化の為に出来るだけ商品数を絞ろうとするからです。 ●一般のスーパーのアイテム数:約5,000 ●コンビニのアイテム数:約3,000
因みに 私は、前職はネット通販会社にいました。 そこで 感じたネット通販の凄さは「在庫が少しでもあれば、全国にテストマーケティングを出来る点」です。 つまり 在庫を少なくする分、多品種を扱うことで、お客さまのニーズをいち早く汲み取ることができました。
「ドン・キホーテ」も同じことを実践されているのだと感じました。品揃えが多いことは、お客さまの欲しい商品を提供し易い=現場のリアルなニーズを汲み取り易いことだと思います。
■3.「消費者の心理をついた『圧縮陳列』!」 *ドン・キホーテの名物といえば、山のように積まれた「圧縮陳列」です。 あのジャングルのような煩雑な陳列に"アミューズ性"を感じると同時に、発見する楽しみを味合うことができます。 この"宝探し感"が「ドンキに行ってみよう」という気にさせ、探し尽くせないことによる「見落とし感」、「後ろめたさ感」が、また"行ってみよう"という気にさせてくれます。
更に、この「陳列方法」は計算し尽くされている所が凄いです。 例えば… 「売れ筋商品」を敢えて一番奥に置くことで、導線を伸ばしたり、人は角を曲がった瞬間 同じ場所に視線が行くことを想定して、そこに 高価な商品を並べたりと。
そして、このように徹底的に「陳列方法」の分析を行なっているのが「ラックジョバー」と言われる人たちです。
「ラックジョバー」とは、店舗の棚に関わる管理を任された問屋です。普通の問屋だと、ただ商品供給を行うだけに対して、「ラックジョバー」は陳列方法 そのものにまで踏み込みます。
ドン・キホーテは、これらの人とも密接な関係を作ることでオリジナリティ性のある陳列を発揮してきました。
ただ、「圧縮陳列」の弱点は、欲しいものが決まっている人にとっては、逆に煩わしい点です。
その為 例えば… 都会の店舗だと、大体のお客さんが欲しいもの目当てに来店することを想定し、スッキリとしたレイアウトにされているのです。 ドン・キホーテの特徴である「権限移譲」を活かした「個店主義」だからこそ出来ることです。
■4.「計算し尽くされた『利益構造』!」 *ドンキの売上構成比を見ると… 食品が約35%の一方、非食品が約65%を占めています。 しかし、粗利構成比で見ると… 食品が約25%の一方、非食品が約75%を占めています。 つまり… 「食品関係で価格競争力を高めることで人を惹きつけ、非食品で利益を補う」という利益構造となっているのです。
その為の工夫もなされています。 消費者は「食品」の場合だと"1円単位"でシビアに選別します。 しかし 同じ消費者でも、「非食品」であれば、そのシビアさは緩和します。
つまり… 食品と非食品を併売する店舗は、非食品のコーナーに立ち寄ってもらう際に、マインドを「食品」から「非食品」へと切り替えてもらわなければならないのです。 その為、ドンキでは、食品売り場を比較的「整理整頓」された空間にしていて、非食品とのフロアも分けられています。 すると、消費者は非食品フロアに入ることで、勝手に気持ちが切り替わり、多少 高くとも買ってしまうのです。
これが、非食品で利益を補えている理由です。
ーーー ◎と言うことで… 成長し続けている理由を自分なりに分析しましたが、実は 私自身が一番 勉強させて頂きました。 本当に儲ける仕組みが"凄い"の一言です。まだまだ、調べて見たくなりました!
成長理由を幾つかピックアップしましたが、これら単体で成り立つ訳ではなく、俯瞰して見た時に全ての行い一つ一つが繋がっている「ビジネスモデル」が、全てだと感じました。
とは言え… 小売業界は人口減少や、価格競争によって、更に厳しい時代となるはずです。 その為、小売だけでは利益を得ることが出来ず、多くの企業では決済サービスまで作ったりと、「多重構造」にする事で、他の部分で、何とか利益を確保しようとされています。 もしかしたら、小売業だけでは利益を出し難い日が来るのと、個人的は感じました。
更に… 長時間労働が問題視されている この時代に於いて、「ドン・キホーテ」の強みの一つである24時間営業も継続が難しくなって来るはずです。 そんな中で、次の一手をどう打たれるのかがとても楽しみです。 それを見据えて、「海外展開」なども積極的にされているのだと思いますが。
個人的には、生意気な言い方になりますが、「ドン・キホーテといえば、××」という「××商品」が見当たらないのが気になりました。 ドン・キホーテオリジナルブランドの「ヒット商品」開発を期待します。
競争の激しく真似され易い小売業界だからこそ、商品での「ドン・キホーテ"らしさ"」を出すことが必要だと感じました。
勿論 それが難しい事は、重々 承知しています。
ーーー ◎最後に、C.I.について一言いわせて頂くと… C.I.自体はしっかりと整備されていると思いましたが、取り組む事業を通して、企業が目指す不変的な想い(存在意義=成し遂げたい想い)が見当たらないことが気になりました。その為、企業原理である「顧客最優先主義」が、何をもっての「顧客最優先主義」かが見出し難い気がしました。
あくまでコーポレートサイトに記載が無かった為、こう言う表現をさせて頂きました。
◎concanが考えるC.I.についてはこちら! https://www.concan.co.jp/post/topics-ci
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