今日は concan代表の私が、自分の戒めも含め「約200年前に作られ、今も経営者やリーダー・管理職の方々に読み継がれている『重職心得箇条』の訳文」を紹介します。 ~副題:モチベーションを維持する方法を『重職心得箇条』から学ぶ!~
ーーー それでは、先ず… ●「重職心得箇条」とは、江戸時代の陽明学者である『佐藤一斎』(1772~1859)が、自藩(美濃岩村藩)の重役たちの為に、著したものです。藩の『重職』についての心構えや、目の付け所などを『十七箇条』に纏めたものです。所謂 「聖徳太子の十七条憲法」を意識したもので、藩の"憲法"という意味でもあります。
この書は、200年前に書かれたもので、その中の用語は、時代を感じさせる"言葉"が使われていますが、幾つかの用語を現代風(重職→重役/マネージャーなど)に読み替えれば、その内容は 今日でもそのまま通用するものです。
しかし 現在の日本は、戦後 この種の“古いモノ”は、悉く排除されてきました。所謂 「"今はそんな時代ではない”」と。しかし その結果 今日の日本は、行き詰まってしまいました。その原因は、『人として やってはならないことを見失った』と言われています。
そこで、多くのビジネスパーソンが、「何をすればいいのかという前に、何をしてはいけないのか」を"本気"で考える必要があるかも知れませ。今日は、この当りを考えてみます。
ーーー ●では、具体的な内容を紹介します。 【重職心得箇条/訳文】
◆第1条.「本分とするべきこと!」
重職とは、国家の大事を扱う役職をいう。重職は、軽挙妄動するべからず、威厳を養うべし。瑣事に煩わされては、大事な判断を誤る。
◆第2条.「人の使い方!」
大臣たるもの、部下の意見をうまく引き出し、それを公平に裁決すべし。部下の意見より自分に優れた意見があっても、下のものの意見でも大過なくやれるなら、それを採用すべし。不出来な面ばかりみると、人が育たない。欠点を長所で補うように人を使う。好き嫌いで人を使うな。あまり好きになれない人物でも、うまく使ってこそ一人前。
◆第3条.「守るべきもの、改めるべきもの!」 組織に伝来の「精神」や「考え方」のようなものがあるなら大切にせよ。一方、良くない「習わし」があるなら、時機をあやまたず修正が必要。「精神」を古くさいとして退け、悪習を「しきたり」だとして守ることの無いように。その目の付け方を間違えてはいけない。
◆第4条.「まず、自分で考えてみること!」 古くからの「精神」「習わし」は、最初からこれを持ち出さないこと。まず、自分で状況判断をし、その上で、古くからの「精神」「習わし」をみること。古くからのやりかたで、良ければそのまま使うし、時宜に合わなければ改めよ。とかく組織には、古い「精神」「習わし」を最初から持ち出すカタブツが多い。
◆第5条.「機に応じる!」 この「機」というのは、事前に察知できるものだが、「物」にとらわれていると、出来ない。「物」に拘泥して「機」を失うと後で、ニッチもサッチもゆかなくなる。
◆第6条.「公平な判断のための客観性!」 公平が大切だが、事の渦中にあっては判断を誤り勝ちなもの。一度、意識を引いて全体を外からよく眺めその上で個別の判断をすべし。
◆第7条.「おしつけ厳禁」 皆が嫌がる事がなにか、よくわきまえて、無理に押しつけないこと。押しつけを威厳だと思い、自分の好みを押しつけるのは小人物である。
◆第8条.「『忙しい』ヤツは半人前!」 重職は、「忙しい」ということを口にしない方がいい。よしんば 本当に忙しくても、「忙しい」と言わないほうがいいだろう。大体、部下にうまく任せることができずに自分であれこれするから、つまらぬ事に取り紛れて忙しいのである。これでは、大事の判断を誤るというものだ。忙しいは、心が亡ぶと書く。
◆第9条.「評価について!」 人の評価、賞罰の決定については、重職がしなければならない。こういうことを部下任せにすべきではない。
◆第10条.「軽重先後の判断!」 大小軽重の判断、緩急先後の判断が大事である。ゆっくり過ぎても時機を失するし、急ぎすぎて間違うこともある。近々の処理、短期の目標、中長期の案件をしっかりと考えて、着実に手順を踏んで実行することが肝要。
◆第11条.「度量が大事!」 つまらぬ事にこだわり、みみっちい振る舞いをすることのないように。そんなことでは、せっかく才能があっても それを生かせない。人を受け止める心と、なんでも受入れる度量が大事である。
◆第12条.「頑固で柔軟!」 大臣は、定見をもち、断固として自分の信念を貫く強さが要る。しかし、人の意見を虚心によく聞き、必要なら180度方向転換すべきだ。こういうフレキシビリティがなければ、独善に陥り勝ちである。
◆第13条.「バランス感覚!」 マネジメントには、バランス感覚も大切である。攻めどころと 守りどころ、上下の人間関係などのバランス感覚である。その上で信念を貫き、筋の通ったマネジメントをすれば不可能はない。
◆第14条.「仕事のための仕事の弊害!」 政治というと、どうも何かを足したり、繕ったりということになる。実のある政治とは、作為を排除した流れの自然なものであるべきだ。役人は、とかく実のないことをしがちである。ベテランから そんな風だったりして困るものだけれど。日常の処理は、出来るだけ簡単に出来るようにするものである。効率のいい仕事ぶりを心がけることが大切だ。
◆第15条.「行動に裏表を作るな!」 上に立つ者は 人を疑い、あら探しをし、裏表のある言動をしてはならない。上がこんな風だと、それが蔓延して 社風になり、管理できるものではない。ストレートな意思疎通をしやすい組織にすることが大切である。
◆第16条.「オープンポリシー!」 やたらに隠し立てをするものではない。無論、機密は守るべきだが、あれもこれも隠すとあらぬ疑心暗鬼が蔓延し、妙な組織になる。
◆第17条.「やる気を生み出せ!」 マネジメントというのは、「春」のように気持ちのはずむ雰囲気を醸すことが大切。賞罰もはっきりと分かり易くく、誰もが納得できるものであること。資金がないからといっても、あれもこれも「駄目だ」ということでも立ちゆかない。こういう事に気をつけて欲しいものだ。
ーーー ◎と言うことで… 「重職心得箇条」の具体的な内容を『訳文』で紹介してきました。この訳文を見直すと、私自身「新鮮な驚きと、取るべき行動」が見えてきたように思います。現代社会では "スマホ"を開けは、あらゆる「情報」が簡単に手に入れる事が出来ます。 しかし この「重職心得箇条」は、そのような「情報」とは異質のもので、今の激変する時代に必要とされる『哲学』や『人間学』だと感じています。
ーーー ●最後に、モチベーションを維持する方法を「重職心得箇条」の第13条『バランス感覚』から紐解いて終わります。
管理職とは、当たり前ですが『上司』と『部下』の間に位置する、真ん中を担う"ポジション"です。それは、自分より上の人間と、下の人間の両者と、「バランス」を取りながら付き合う必要があります。 上に傾き過ぎてもダメだし、下に傾き過ぎてもダメで、絶妙な「バランス感覚」が必要ですが、「バランス」を取り過ぎると、逆に 硬直してしまい「事流れ主義」と言われてしまいます。
〇「傾き過ぎる」と、「あの部長は、専務の顔色ばかりうかがって仕事をしている。全然 オレ達の方 見ていない!」「部下に嫌われたくないから、言いたいことが言えず、リーダーシップに欠けている人間だ」と思われてしまいます。
〇「硬直する」と、「あいつは 誰にでもいい顔をしやがる。」となってしまいます。
下手すると、上からも下からも"クレーム"を言われ、「ストレス」が蓄積してしまいます。 それではどうしたら良いのか? 「重職心得箇条」の第13条『バランス感覚』(訳文)から考えてみます。
「マネジメントには、バランス感覚が大切だ。相手を褒め過ぎてもダメで、相手を認めず 怒ったり、忠告するばかりでもダメ。褒めたり、忠告したりと、『バランス』をとらなければならない。これを、上下の人間関係に行わなければならないのが、『重職』の仕事なのだ。
それには、上下の人間性を理解しながら、『バランス感覚』を大切にして、言うべき時は、"ガツン"と自分の言いたい事は通すこと。筋の通ったマネジメントをすれば、不可能な事はない。」
この「バランス」は、上司と部下の2軸で考えてはならないと説いています。考慮すべきこと、それは『全体のバランス力』だと言うことです。
ーーー では、「モチベーション」との関係を説明しますが、「モチベーション」は、継続させなければ"意味"がありません。 幾ら「モチベーション」を高めても、それを 高い水準で維持させない限り、企業経営に還元は出来きません。折角 仕事に対する「意欲、モチベーション」に"火"がついても、その"火"を絶やさず 継続させない限り、企業活動に生かせません。
「モチベーション」は、『働かされている』と感じた途端に低下します。その為、「モチベーション」の維持に必要なものこそ、この「バランス感覚」なのです。「モチベーション」維持に必要なのは、「自らやっているという自主性」であり、それには、「何の為に頑張るのか、という"信念"」が必要になるのです。
スポーツ選手に置き換えてみると分かり易いと思います。 〇例えば、バスケット選手の「モチベーション」。本人は、バスケが好きで、仲間と共に試合に勝つぞ!という「モチベーション」で頑張っているのに、下手な指導をされて、「やらされている感」を感じてしまうと、「モチベーション」は低下してしまいます。 コーチからみたら、「もっとこうすれば伸びるのに」と思う指導でも、本人の"心"を置いていくと、『逆効果』になる可能性もあります。期待しているからこそ、やり方に 口を出すのですが、相手に「やらされている感」を感じさせてしまうと、本人の「モチベーション」は下がってしまうのです。
ーーー ●そこで、この「モチベーション」継続には、『三方よし』の考え方があります。 これは、近江商人の「三方よし」と同じ概念で、三方とは、『売り手』『買い手』『世間』。つまり 売り手と、買い手が共に満足し、更に 社会も納得するのが「良い商売」であるという概念です。このバランスこそが、「モチベーションの継続性」です。 幾ら「この素晴らしい商品を販売しよう!」と、モチベーションが上がっても、上司に厳しい数値目標を設定されると、いつの間にか、「売らなければならない」「売らされている」という"意識"に変わり、「モチベーション」は低下していきます。
「ニンジンをぶら下げて走るか」というと、人間は、馬と違うから、最初は走っても走り続けなくなってしまいます。
それでは、どうすれば走り続けるかというと、「自分が好きで走っているという自主性」が大切で、この自主性を育てる歴史的手法が、「三方よし」の考え方なのです。
「自分の為というよりも、誰かのため」と意識をもっていった方が、人間は 動き易いし、動かし易いのです。
それは『売り手』→『買い手』→『世間』ではなく、『世間』→『買い手』→『売り手』と順序を変えて行う方が、「バランス」が取り易いのです。
ーーー ●そして もう一つ、必要なことは、部下自らの「気づき」です。 管理職が自らプレゼンして、これをやれといっても、それは「気づき」にならず、「やらされている」になってしまいます。時間は掛かっても、ワークショップをしたり、最初のプレゼンは、部下にやらせて、そこに「気づかせて」いく必要があります。例え斬新な"アイデア"を盛り込んでいなくても、目的は「自分たちでやっている」感覚なので、部下が組み立てる事に『意義』があります。しかし 一つこの方法には『欠点』があります。「アイデアやコンセプト」は、経験豊かな上司が出したものなのに、部下が組み立ててしまうと、「自分たちのアイデア」だと"誤解"して、それを 上司が「かすめ取った」と認識してしまう時があります。それを避けるには、日ごろから『上司』・『部下』の関係ではなく、『師弟関係』を築くしかないのだと思います。しかし 時代も、社会も変わったとしても 上司・部下の関係が『友達』のようになってはならないと、私は 思っています。 長くなりましたが以上です。
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