今日は、concan代表の私が「日本に於ける『週休3日制』の導入で、日本人の生活がどうなるのか」を調べてみます。
●日本全体で「週休3日制」が定着すると、私たちの生活は 今よりも良くなるのでしょうか?
●それとも「業務の増加」や「収入減」などの不安が、現実化するのでしょうか?
今回は、このことに考えてみます。

2022年4月に、Panasonicが、本年度内に「週休3日制」の試験導入を開始すると発表しました。欧州企業では、導入が目立つ「週休3日制」ですが、いよいよ 日本でも本格的に取り入れられるのでしょうか。
既に、日本の大手企業では昨年、「みずほフィナンシャルグループ」が週休3~4日の社員制度を導入したほか、複数の大企業でも導入の動きがあります。
一方で、「試験的」や「業務によって」といった制限がある企業が多く、企業内の全ての"職場"が「週休3日」になるイメージが まだ湧かないという意見もあります。
海外の事例を見ると、「週休3日制」を本格導入するやり方には、"2通り"あります。
●一つは、1日の労働時間が同じで単純に 週4日勤務になる方式で、要するにフルタイム勤務では 週40時間(8時間×5日間)から32時間(8時間×4日間)に業務時間が減る形です。
●もう一つが、1日の労働時間を10時間に増やした上で、「週休3日」にするケースです。
8時間労働で週5日働く場合と、10時間労働で、週4日働く場合のどちらも、1週間の労働時間は変わらず 40時間になります。
「週休3日制」の導入では、一般的に 以下の"3つ"が『懸念』されます。
【週休3日制の導入で『懸念』される事項】
◆懸念1.「そもそも、そんな働き方が自分の"職場"で成立するのか?」
◆懸念2.「仕事が今よりも大変になるのではないか?」
◆懸念3.「週休3日になることで、収入が 今よりも減るのではないか?」
●結論からいうと、上記の『懸念』の一部は、悪い方に現実化すると思いますが、日本人にとっては 良い結果になることも多いのが この「週休3日制」だと言うことです。
【「週休3日制」で追い詰められるのは『部下』ではなく、実は『上司』】
欧州の会社の場合、「週休3日制」で週40時間労働に切り替えたことで、朝7時に勤務開始時間が早まって 退社時刻はこれまでと変わらない形になりました。この方式だと、冬の場合 まだ周囲が暗いうちから「社内会議」が始まることになります。しかし、やってみた本人から見ると、一日10時間勤務自体は それほど 負担ではないと言います。
●欧州の話をまとめると…
これまでと「勤務時間」は変わりません。ただ 全体的に生産性は良くなったというのです。理由は"2つ"あります。
●一つは、週末に子どもや家族、友人などと過ごせる日が 1日増えたことで「精神面のゆとり」が出来たことと、会社全体で「無駄な仕事を減らす」方向に力学が働くことになったからだといいます。前者は、分かります。後者について補足すると、要するに週4日で業務を終わらせなければならない状況から、「残業の余地」のようなものが減ったのです。
その為、一人ひとりが生産性をより強く意識するようになったということです。
この話は、1番目の懸念「そもそも、そんな働き方が自分の"職場"で成立するのか?」という疑問への答えにもなっています。無駄な会議が多く、だらだらと働く人が多い"職場"。その上、上司が部下が残業を断れないのを前提に仕事を振って、「明日の朝までに この資料を仕上げておいて」みたいに無茶な指示を出す職場なら、「週休3日制」など 一見 導入できないかも知れないと 最初は思いますが、「週休3日制」を会社が導入することを決めると、実は 追い詰められるのは上司の側です。
「少ない時間で同じ量の業務をどのように終わらせるか」を考えなければいけないのは上司だからです。すると、無駄な会議を続けていたり、手戻りが起きたりするような無茶な指示をなるべく出さないようにしなければいけなくなるのです。
結果的に、それが「働き方改革」を促す圧力になるという点で、「そもそも週休3日なんて成立しない」と思える会社でも制度を変える意味は出てくるようです。
【日本人は世界と比べて長く働き、生産性が低い】
このように「週休3日制」を働き方改革と一体で捉えると、そもそもの問題点も見えてきます。OECDが公表している先進国同士の労働時間の横比較(2020年調査)を見ると、日本人男性の1週間の労働時間は『53時間』と他の国よりも飛び抜けて多いことが分かります。
最初に「1日8時間で5日間働くと週40時間労働」と表記しましたが、先進国は おおむね、この水準よりも少ない労働時間に収まっています。アメリカが『週37時間』、ドイツが『週34時間』、フランスが『週27時間』という具合です。
因みに、「なぜ 男性の労働時間で比較するの」という疑問が湧くかも知れませんが、実は 日本では 男女の間で労働環境に大きな差があります。統計を取ると女性のパート比率が非常に高く、その上、『税法』や『社会保障制度』に起因する「103万円の壁」や「130万円の壁」が存在するせいで、女性の「労働時間」が欧米よりも ずっと短くなるのです。
結果として、男女平均を取るとOECD加盟国間の横比較でも それほど恥ずかしい数字にならないのです。男性だけの「労働時間」を比較しなければ 日本のフルタイム従業員の労働環境の実態が見えてこないのです。
そして、週当たりの「労働時間」の逆数を取ると、今度は加盟国間の生産性の違いが見えてきます。アメリカは日本よりも労働生産性が『1.4倍高い』、ドイツは『1.6倍高い』、フランスは『1.9倍高い』ということが数字から見えるのです。仕事に勤勉なドイツ人が日本よりも『1.6倍生産性が高い』という数字に、日本人は 大いに反省しなければなりません。
【日本が「週休3日制」に踏み切るには「外圧」が必要】
このOECDの横比較から、日本企業は 生産性を上げる余地が まだ かなりあるということが分かります。
背景として、日本には そもそも「無駄な会議」や「無駄な仕事」に問題意識を持たない"社会文化"があります。更に、デジタルに疎い経営者や管理職が多いという実態もあるのです。これらを打破するには、制度そのものを変えていかなければならないという制約があります。
だからこそ、状況を変えるには 「外圧」が有効です。コロナ禍で日本企業が一斉に「リモートワーク」を導入できたのは この「外圧」で、もしコロナがなければ 今でも 殆どの企業では管理職が、「zoom会議? ダメダメ そんなもの。会議は会議室でやるものだ」と主張していたかも知れません。
日本政府や経団連のような組織が「『週休3日制』に踏み切る」と圧力を掛ければ、各企業も真剣に「週休3日」が成立できるように頭をひねらなければならなくなります。「週休3日制」が「外圧」になれば、日本の"職場"は変わらざるを得ないのです。
【のんびり働いていた企業は仕事内容が厳しくなる】
ここまでは、良いことばかりですが、不安も残ります。そして、それらの不安の一部は現実化します。
まず、2番目の懸念ですが、これまで のんびりと仕事が出来ていた企業では、生産性が上がることで仕事の内容が厳しくなる可能性があります。
例えば、1987年に
JRが誕生した当時、JRの社員は「いやあ 大変です。国鉄時代の3倍も働いています」という声をよく聞きました。しかし、コンサル会社による調査では、民営化後も 私鉄とは生産性が倍違っていたそうです。本当は、6倍忙しくなる余地があったのに、大組織の内部にいると それに気づかないものです。「週休3日制」導入の裏の効果が生産性向上であるとすれば、当然、業務が効率化していく方向に力が働きます。
会議の出席者数は 本来必要な人だけに減るでしょうし、無駄な書類は作らないようになる訳です。
それは会社にとっては良いことなのですが、実は これまで無駄な会議で発言もせずに座っていることが許されていた人は、「会議に出ずに他の仕事をちゃんとしろ」と命令されることになる訳で、当然 仕事は以前よりもきつくなります。つまり、組織全体で「何んとか週4日間働いて家に帰ろう」とする未来では、当然のように今よりも 仕事の密度は上がるのです。
【週休3日制で「収入減の未来」がやってくるかも知れない理由】
3番目の懸念が「週休3日制だと収入が減るのではないか?」というものですが、これも 実は 懸念通りの未来がやってくる可能性があります。
そもそもの世界経済の大問題として、AIが進化することでDXが進み、人間の全ての仕事が減少していくという未来予測があります。これは 経済学的には、ある会社での仕事は減るけれども、イノベーションが起きることで 別の産業が勃興して そちらで新しい仕事が生まれると説明されます。しかし それを労働という側面で見れば、既存の勤務先では仕事が減るので、他の副業を見つけなければいけない未来がやってくることを意味します。日本の労働法規では、一度 雇用した正社員はクビにすることが出来ません。多くの大企業が中高年の社員をリストラした方が利益は上がると分かっていても、会社が傾かない限りは そこに踏み込めないのは法律の壁があるからです。
ところが、勤務時間を減らすだけなら実質的なリストラ効果が生まれる可能性があります。これまで 週40時間働いていた正社員の勤務時間の"定義"を、週32時間に変更することで給与水準を『20%カット』出来る可能性が出てくる訳です。
この当たりの議論は、この先 どのような法律にすべきかが国会でも議論されていきます。ただ企業の競争力ということを考えると、この問題については ある程度、大企業側の要望を"社会"は受け入れざるを得ないと思います。
ここで、一部の日本人にとっては都合が悪い話もをしておきます。実は、OECDの「労働時間比較」には、家事にどれだけ時間を費やしているのかの横比較も存在しています。「日本人男性」の場合、会社で勤務する時間が長すぎる関係で、先進国の比較で見ると圧倒的に家事を手伝っていない傾向が見られます。もし「週休3日制」が定着すると、もうそんなことは許されないでしょう。「家事は家族で分担する仕事」という、当たり前の未来も到来するのです。それが「週休3日制」の日本社会に対する一番の貢献になるのかも知れません。
◎と言うことで…
「日本人の生活は、『週休3日制』の導入で、どう変わるのか?」と題して書いてきましたが、「週休3日制」に向けて、ビジネスパーソン 一人ひとりが 「スキルアップ」の準備が必要です。
新型コロナウイルス感染症の影響で業績が悪化する企業の増加によって、生産性の向上と雇用確保を狙った「週休3日制」の導入は、より進むと考えられます。
「週休3日制」のデメリットで みなさんが 一番 気掛かりな点は、給与が減る可能性があることだと思います。その為、収入が減るリスクに備え、それぞれが 本格的に「週休3日制」が導入される前に、「スキルアップ」の為の"学び"や、"副業"を始めるなど、今から出来ることをやる必要があります。
副業に関しては、「本業にも役立つ副業の選び方」や「副業で習得できるスキルと本業にも繋がる効果を知る」など、始める前に 熟考することが大切です。
●最後に、「週休3日制」は、『優秀な人材の獲得』や『コスト削減』などの効果が期待できる制度ですが、その一方で「従来通りの業務量に対応しきれなくなる」「勤怠管理が煩雑化する」といったデメリットもある為、メリット・デメリットを比較した上で、それぞれの企業が導入の是非を検討する必要があります。導入時には、「対象者」や「利用期間」「給与や所定労働時間」などを定めることも必要です。「週休3日制」の導入によって「ワークライフバランスの実現」や「仕事と家庭の両立」を促し、従業員にとって、より働き易い環境を創ることも不可欠です。
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